もう戻ってはこないはずの
わたしが少年だった頃
生まれた場所を知ることもなく
犬の人形と寝ていた頃
じっとりと湿った夏の窓辺に
夜ごとのいびきも静まって
隣の町の星のまだらに
故郷と名付けて泣いていた頃
あるいはなにかの知らせのように
あるいはなにかの救いのように
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこと
怯える鍵を首にぶら下げ
ひとつの椅子に腰を掛けた
もしくは轟くだけならば
それは夕餉のカラスのように
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこと
軋むようには鳴かぬのだから
夕陽も綺麗に燃えるでしょう
さぞかし恋しく燃えるでしょう
ところが故郷を知らないばかりに
そんな素敵な青春のかけらも
わたしの夏の鏡面では
「死神」の虚像と映るのです
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこと
椅子に縛られ声も出せずに
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこと
ふたつの歯車が戦争みたいに
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこと
じっとみつめる死神みたいに
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこと
そいつの斧が通り魔のように
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこ
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこ
わたしの体は押しつぶされて
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこと
故郷を知ることなんて出来ずに
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこ
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこ
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこ
ぎぃこぎぃこ、ぎぃこぎぃこ
わたしは見つづけていたのです
歯車をまわす死神に
故郷も知らないちいさなわたしが
ぎぃこぎぃこと
押しつぶされてゆく夢を
わたしは途絶えることもなく
殺されつづけていたのです
ぎぃこぎぃこと死神に。
まったく同じ死神に。
ぎぃこぎいこと死神に。
12の春が終わる頃まで。
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