はるか遠く
そのまた遠く
どこからともなく
ハープの旋律が
聴こえたころ
穂麦も揺れる夏空の下
薄紅色のせせらぎを
ざぶんあざぶんあ
ざぶんざぶんと
ヒノキの小舟で
妖精たちがやってきました。
水素分子よりは少し大きく
ひまわりの花びらの色をして
黄金の頭巾を被った彼らは
まあるい瞳を朱色に染めています。
学名では「ゴロ」というらしいのです。
1ダースずつ左右に分かれて
舟に乗っているゴロたちは
デンシ石と呼ばれる鉱物をはめこんだ
ギザギザの桃色ステッキをオール代わりにして
ざぶんあざぶんあ
ざぶんざぶんと
息を合わせて舟を漕いで行きます。
ざぶんあざぶんあ
ざぶんざぶん。
舟はどうやらどこかの岸辺に到着したようです。
ゴロたちは岸辺に小舟を停泊させますと
今度はさっそく
小舟の舷に磁石みたいにくっついていた
長さ1㎞以上はありそうなファイバーの梯子を
雲の方に向かって重々しそうに立て掛けました。
そしてゴロたちは梯子を掛け終えると
蟻の行列みたいに綺麗な1列になってその梯子を
ぞろりぞろりとみんなでかけのぼっていきました。
もしも途中で誰かが息を切らして
動けなくなった時なんかは
意地悪なゴロは
背中を踏んづけて追い越してゆきますが
心優しいゴロは
背中を押して助けてやるのです。
そうしてぞろぞろのぼっていくようです。
見たところどうやら
天井辺りは薄い硝子の膜になっているようで
遠くに宇宙らしきものが微かに透けており
ゴロたちも瞳をぱちくりさせて
自分の姿やその先の方を見やっています。
ぞろりぞろりとかけのぼってゆき
やっとのことでみんなが到着いたしますと
一番先に着いたゴロが
ひとりひとりに点呼をとってゆき
しっかりと全員到着したことを確認しました。
どうやらゴロは全部で24ゴロいるようです。
そしてその後6ゴロ×4班に分かれたあとで
各班ごとにそれぞれのやりかたで
眼をつむって何かをお祈りします。
それが一通り終わりますと
各班はみんな一旦中央に集合して
各自ポケットにしまっておいた
雨粒を編んでつくったはちまきを
おでこか頭の境目辺りに巻きました。
なかにはわざと目元を全部覆ってしまい
変に踊っているひょうきんなゴロもいて
そいつをみんなで笑ったりなんかしています。
中央に集まったゴロたちはどうやら
ピストルの合図を待っているらしく
なにやらみんなそわそわしている様子です。
ゴロたちの真上でひとつに固まっていた雲も
いつの間にか4つの雲へと分裂してしまい
辺りの空気も一気に冷たくなってきました。
すると間もなく
「パアン」という高い音が鳴り響き
草の上で寝ていたゴロも慌てて池に飛び込むと
4つの班に分かれていたゴロたちはそれぞれ
ついさっき中央から分裂した4つの雲の方角へと
いっせいに走り出して行きました。
各班のゴロたちはそれぞれ4つの雲の下に辿り着くと
さっそくその雲に色をつけはじめました。
泥や岩や草花や、微粒子や微生物の死骸など
手分けして探してきた様々な材料を
砕いたり削ったり叩いたり
水に溶かしてかき混ぜたりと
ゴロたちはせっせと試行錯誤を繰り返しながら
各班ごとにいくつもの色をつくってゆきました。
早くにつくり終える班もあれば
夏空が綺麗な夕景に変わる頃になっても
まだ色をつくり続けている班もありましたが
どうやらみんないよいよ完成したらしく
銀色のバケツいっぱいに入った塗料を
さっきまで綿毛のように白かった雲たちに
「ざぱぁ、ざぱぁ」と
岩肌に打ち寄せる波のような音をあげながら
勢い良く浴びせかけていきました。
夏の陽もすべて傾いて
辺りが紫紺色いっぱいになった頃には
綿毛のように白かった雲たちは
もう様々の色を浴びたために
ブルーやグリーンやオレンジといった
そういった鮮やかな色なんかではなくて
美しい水墨画の中の繊細な風景のようになっていました。
ゴロたちはそうして雲がすっかり染色された次には
ゴロたちが最初小舟に乗ってきた時に使っていた
あのデンシ石をはめこんだ桃色ステッキを使って
すっかり染色された雲の底の面のところどころに
手分けをしながらいくつもの窪みを掘っていくのです。
まるでバニラアイスをスプーンですくう時のように
シャクシャクシャクシャクと雲の底を掘っていくのです。
雲を削り取っていく途中でできた
きめ細かい結晶のようなおがくずは
透明な花火となって空気中に散りばめられ
紫紺色の風に洗われてきらきらと閃きながら
美しい銀河色の飛行船に変わってゆきました。
こうしてゴロたちは
ほっぺたに生ぬるく湿った風を集めながら
てっぺんの硝子の膜をお椀のような形にくり抜きました。
くり抜かれてできた大きな塊は真ん中に集めて置いて
後でそれをごにょごにょこねてもっと大きい一塊にして
世界中のみんなと一緒にムシャムシャ食べるそうです。
ところでくり抜かれた部分に
ゴロたちは何かをはめ込んでいるようです。
そうです。デンシ石です。
船に乗ってやってくるときにゴロたちが使っていた
あの桃色ステッキにはめ込まれたデンシ石を
ステッキから取り外しては
星明かりのある方に高く掲げてキラッとさせてから
お椀の形に窪んだところに
まるでパズルのようにぴったりと時計回りにまわしながら
キュキュッとはめ込んでゆきました。
とうとうデンシ石をすべてはめ終えると
ゴロたちは一目散にその場所から離れて
みんな中央に集まってきました。
みんなでガヤガヤ何かをしゃべっています。
汗もだらだらかいています。
ぐったりしてうとうとしているゴロもいます。
するとさっきからサァァっと吹いていた風が
しばらくの間ピタッと止まって
海の波音さえも一旦静まり返ったように感じました。
そのときです。
まるでこらえきれなくなったといった様子で
生糸の雷がごろごろと閃いて
辺りはいっぺんに暗くなってしまいました。
空に見えているのはその雷の光ばかりです。
星明かりも隠れてしまってもうなんにも見えません。
風もゴゴォと吹いて、波もグサグサうねりをあげて
草むらで寝ていたゴロたちは
もう大慌てでぴょんぴょんぴょんぴょん飛び跳ねていました。
でもまあるい瞳を朱色に染めた空の上のゴロたちは
いかにも嬉しそうな様子でまたなにかのお祈りをした後
みんなで顔を見つめ合っては笑い合ったり手を叩いたりしながら
ガヤガヤと幸せそうな様子でしゃべっているのでした。