2017/08/23

村人たちの声が聞こえる。




すべての真実を忘れても構わないくらいに
太陽の眼差しは今輝いている。
冷たくなった光線も
君たちの体内で
静かに煙を上げてゆく。

風が踊る。
青草の匂いがする。
村人たちの嘆きの声が聞こえる。

「海の向こうで鳴く鳥やい。
 もうこっちに戻ってくるんでねぇぞ。
 俺らお前たちを見つけたら
 きっとお前たちを食っちまう。
 食いたかねぇけど食っちまう。
 お前らの住処はここでねぇ。
 もっと綺麗な街に行きゃあ
 きっとお前たちものびのびできる。
 小洒落た都会人はお前たちが愛くるしいさ。
 ここにゃそんなやついねぇ、あぁいねぇ。
 気取ってる間にやられちまう。
 おっかねぇこった、おっかねぇこった。
 慣れないことぁするもんでねぇ。
 おいらの先祖もそういっとる。
 おっかねぇこった、おっかねぇこった。
 お前らも気をつけて海渡れ。
 渡った後も気をつけろ。
 辛抱強く生き延びろ。
 胸三寸に収めとけ。」

村人の影が
ぼんやり霞んで消えてゆく。
錆び付いたカーブミラー。
ゆがんだ境界線に飛び交う夕焼け。
捨ててあるラヂヲが夜を告げる。
まだこんなに明るいのに。
まるで今日から逃げたいかのように
彼らは慌てて時計の針を進める。

黙っていても
君たちはいずれ消えてしまうのに
彼らはどうして急ぎ足で進もうとする。
彼らには君たちが必要なのに
どうして彼らは君たちを手放そうとする。

目的地を見誤れば
どんなに素晴らしい風景も
ただの目障りな障害物でしかない。
ぼくは何度もそうやって
鬱蒼とした森の奥深くで
不気味な風に襲われてきた。
そうしてまた元の場所へと
引き返すしかなかった。
それでいて輝かしい君たちが
それぞれの道の途中で
どんなに雨に打たれても
倒れずにいることを
遠くで見守るしかなかった。
だからぼくは
君たちに向かって
ただサイコロを投げているだけの
祈祷者だ。

「おーい、お前たちやい。
 向こうにまで行って
 食われちまうんでねぇぞ。
 あぁおっかねぇこった、おっかねぇこった。」

村人たちの声が聞こえる。



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