2017/06/08




それから彼はこう叫んだ。

「ああどうか!
 幻想でもいい!
 この木に巻きついている蔓の一本でもいい!
 私の手足を、いや、魂さえも縛ってくれ!
 人間の心というやつはどうしてこうもわがままなのだ!
 幸福や快楽がいつまでも続くことを許さない!
 いつしか苦しみを取り戻そうと努力し始める!
 なんて奇妙な生き物なのか?
 彼らは幸福の上にさらなる幸福を望むよりも
 苦痛の後に訪れる幸福を望みたがる
 彼らは苦しみの種を子供たちの中にも植えつける
 子供たちは成長するにつれて
 天性の無邪気さを手放すようになり
 甘い果実を手に入れたいという希望を掲げても
 ああどうして、奴らの後に続いて嘆きの河を渡るのだろうか!
 子供たちは綿毛だ、ささやかな風にもいとも容易くなびいてしまう!
 かくいうおれも今まさに
 この川の岸辺の前でうずくまっている!
 おれよりも先に向こう岸へと渡って行く人々が大勢いた
 途中で大波にさらわれてしまう人々もいた!
 そうさ!おれもそうなればいいのさ!
 船は沈み、橋も崩れればいい!
 それとも誰か!このおれをここで絞め殺してくれ!
 その後にはきっと、きっとさらなる幸福が訪れるのだろう?」

こういうと彼は
赤く染まった両の眼を遠くの方へと投げかけた。
そして頭を抱えていた腕を解いて
よろめきつつ、まっすぐに立ち上がり
多くの人々でひしめく船へと向かっていった。
彼のかかとは無数の砂に覆われていた。



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